《「性といのち」の大切さ 》第5回 人工妊娠中絶と性感染症

マナ助産院院長 永原郁子

セックスと妊娠

 精子と卵子が出会った受精卵は、細胞の数を増やしながら1週間で子宮に着床します。その後どんどん体が形作られて、四週間もすれば心臓の拍動が超音波で見えるようになります。「月経が来ないな」と思って1か月半も経てば頭や胴体、手足もはっきりとわかるようになります。ふわっと宇宙遊泳をしているような動きや、時には手を振っているような仕草が超音波の映像に映し出されます。
妊娠したかもしれないと相談にくる子たちの多くは、このような赤ちゃんをお腹に宿しているのです。
女の子たちが口々にする言葉は、「妊娠すると思っていなかった」です。セックスすることと妊娠することが結びついていないのです。10代では排卵を予測するのは大変難しいことですし、付き合う相手は性衝動の激しい時期ですので、妊娠しても当然! の条件が整っているにもかかわらず、妊娠するとは考えていないのです。妊娠がわかってからご家族を交えての話し合いに関わることもあります。
中には、学校を中退してパートの仕事をしながら出産、子育てをする道を選択した子もいます。お母さんの協力を得て、出産後に復学した子もいます。パートナーが社会人の場合は同棲を経て、結婚に至ることもあります。

人工妊娠中絶

しかし、多くの子たちは人工妊娠中絶術(以降中絶)の道を選択します。わが国の20歳未満の中絶の件数は1年間に2万3985件。これは1月当たりでは約2千人、1日では約66人になります。例えば17歳では、85人にひとりが中絶経験者です。
中絶した人の数が増えてくると、中絶そのもののハードルが低くなっていくように思います。産みたいと涙を流しながらも中絶を選択する子、保護者主導で手術を受ける子、中には「だって仕方ないやん。わたしにだってしたいことがいっぱいある。大学だって行きたいし」と、自分の都合しか見えていない子もいます。
しかし中絶は、女性にとってそれほど簡単な経験ではありません。一生忘れることのできない心の傷を残すこともあります。将来、不妊や異常妊娠、異常出産の原因になることもあります。中絶後、赤ちゃんの声がして眠れなくなった子もいました。中絶した時から自分の時間が止まっていると苦しみを打ち明けてくれた女性もいます。中絶は体だけではなく精神的、社会的、霊的健康をも損なう危険性があるのです。
私は中絶を選択した子や経験した子に2つのことを言います。1つは赤ちゃんに謝ることです。謝って赦されるかどうかは分かりませんが、謝らない限り赦されることはありませんから。そしてあと1つは将来、自分もいのちを終えて赤ちゃんのいる所にいって赤ちゃんに会った時に「お母さんはあなたを産んであげられなかったけど、あれから一生懸命生きてきたんだよ」と言えるような人生にしようと言います。女の子たちがこの経験を傷として引きずってほしくない、また同じ間違いを繰り返さないでほしいという思いから発する言葉です。

セックスと性感染症

セックスはいのちを生み出し、素晴らしい愛の表現であり喜びですが、セックスに乗じてうつる病気があります。性感染症の種類はたくさんありますが、中でも今、若者の間で蔓延している性感染症の1つがクラミジアです。
数年前の大規模調査で、高校生の10人に1人はクラミジアに罹っているという結果が出ました。症状が出にくいのが蔓延している原因です。将来不妊の原因にもなりますし、クラミジアに罹っているとHIV感染の危険性が3~5倍になります。HIV感染及びエイズは、わが国では増加の一途をたどっています。また、子宮頸がんを起こすヒトパピローマウイルスもセックスでうつる病気です。いのちを脅かしかねないような、また自分の将来に大きな影響を及ぼすような性感染症が若者の間で広がっているのです。

大人の責任として

私たち大人は、セックスにはリスクが伴うということを子どもたちに伝える責任があるのです。そしてもし、わが子にこのようなことが起こったとしても、子育てが間違っていたとは言わないでほしいのです。それは子どもそのものを否定することになります。この経験を子育ての結果ではなく途上として受け止めて、親子の絆を深め、子どもが前向きに生きていける経験にしてほしいのです。(月刊「いのちのことば」2011年3月号掲載)

1993年神戸市北区ひよどり台にてマナ助産院を開業。
自然出産や子育て支援を通して地域母子保健に携わる。
2000年に性教育グループ「いのち語り隊」を立ち上げ、幼稚園、小中高校、保護者や教職員に向けて講演を行う。
「性を語ることは、生きることを語ること」という信念のもと、「いのちと性」の大切さを年間約120か所で語る。
その活動は注目を集め、TBSテレビ「情熱大陸」やサンTV「ライフライン」でも取り上げられた。「ティーンズのための命のことがわかる本」など執筆活動にも精力的に取り組む。
また、育てられないと悩む女性が24時間訪れることが出来る場所の設置を目指している。
神戸大学大学院保健学研究科臨地教授、神戸市立看護大学臨床教授など助産師の育成にも尽力する。

 

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