《レビュー》映画「ヴァンサンへの手紙」―ろう者コミュニティの存在と実情

  • 2018/10/11
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エッフェル塔を背景に手話劇を演じるレベント・ベシュカルデシュ (C)2015 Kaleo Films, Le Miroir

《レビュー》映画「ヴァンサンへの手紙」

ろう者コミュニティの存在と実情を詩情味豊かに表現

「ろう者の存在を知ってもらう映画を作ろう」といっしょに準備していたろう者の友人ヴァンサンが10年前に突然命を絶った。彼の遺志へのレスポンスとして、その後のろう者コミュニティと手話教育の情況をレティシア・カートン監督の詩情味豊かな感性で描かれているドキュメンタリー映画。原題は“J’avancerai vers toi avec les yeux d’un sourd”(ろう者の視点であなたに寄り添う)。レティシア・カートン監督は聴者だが、ろう者のアイデンティティ、ろう者コミュニティーについて今は亡き友ヴァンサンと語り合う構成・演出で追っていく。

レティシア監督に最初に手話を教えたステファヌ (C)2015 Kaleo Films, Le Miroir

突然、自ら命を絶ったヴァンサンと彼が抱いていた怒りと願いへの追想

監督のレティシアが、10年前に自死したろうの友人ヴァンサンとの思い出を語り始める。出会いは1990年代後半。手話を学びたいと思っていたレティシアは、デフクラブに「友達募集」の広告を出したことがきっかけだった。交流が深まるにつれヴァンサンは周りから障害者だと思われたり無視されることへの憤りと苦しみをレティシアに打ち明けていく。二人は「ろう者のことを世間の人たちにもっと知ってもらおう」と誓い合い、いっしょにドキュメンタリー映画を企画し、準備を進めていた。だが、突然ヴァンサンは自ら命を絶ち、この世を去った。

レティシアは7年前から一人で映画の撮影を続けた。パリ、リヨンなどフランスのろう者の友人やコミュニティを訪ねて回り、ヴァンサンが尊敬していた人や親しかった友人らと語り合い、ヴァンサンへの想いを語っていく。

最初の撮影

最初の撮影は、ヴァンサンの友人でレティシアが最初に手話を教わって手話講師のステファヌと妻子。妻のファビエンヌも手話通訳者だ。子どもたちは聴者で手話も使うバイリンガル。最近は、ろう者が手話で大学受験できることにステファヌ夫妻は驚く。なぜか。1880年にミラノでの第2回国際ろう教育国際会議で採択された手話教育を禁じる決議は、その決議を取り消すまで130年間フランスだけでなく世界各国に影響を与えてきた。ろう者は、手話を禁じられ聞こえない音を口から発する訓練をする口話教育を強いられてきた。ろう者の日常では手話でコミュニケーションしても、古い世代には手話を使ことは恥ずかしいことだという意識も植え付けられてきた。ほんの8年前に手話禁止決議が削除されて、手話での大学入試ができるまでに変化していることへの驚きを隠さない。

ヴァンサンが心から尊敬していたろうの俳優レベントは、手話劇で有名なひと。彼は、自分の口話が親しい人たち以外には聞こえないくらい「小さい声で分からない」ことを知り、自分を恥ずかしく思い口話をやめた。レベントの友人パトリックは、ろうコミュニティの権利擁護とフランス手話が言語として憲法に明記されることを目的とした活動団体「OSS2007」の創立者。パトリックたちは、ろう者の団結を世界に示すためパリからミラノまでデモ行進を続けている。ステファヌの兄ミシェルと妻セリーヌは、普通校に適応できない息子テオのためにバイリンガル校があるトゥールーズに引っ越してきた。ヴァンサンはミラノ会議での手話教育禁止決議を知ることなくこの世を去った。彼の心にあった苦しみや怒りそして願いはどのようなことだったのか。レティシアは、ろう者たちにインタビュー取材した記録を映し出しながら「ヴァンサンへの手紙」を読み上げていく…。

本作にも出演しているレティシア監督 (C)JC-LORD

手話は温もりのある美しい“言語”

今年7月に来日したレティシア監督をインタビューしたとき、「私は、赤ちゃんの時から聴者、ろう者にかかわらずすべての人に手話を教育するのはとても役に立つと思います。なぜなら、私の子どもとも電車が発車する直前まで窓ガラス越しに手話でなら会話ができますから!」と、聴者同士でもコミュニケーションが豊かになる喜びを語っていた。じっさい、本作のろう者たちが交わす手話は、しっかりと相手の目を見て、表情を読み取り感情の温もりが伝わってくる表現豊かな美しい“言語”であることを教えてくれる。

フランスで公開上映さ入れたとき、観客の反応について問うと、「聴者の方たちは『知らなかった。手話で会話していると思っていた』と言います。ろう者の反応は『とても感謝している』と言ってくださいます。ろう者は映画好きの人が多いのですが、大好きな映画芸術の中に自分たちの人生が大きなスクリーンに映し出されたことで、自分たちが認められたとということを感じたそうです」というレティシア監督。本作の原題が伝えたかった「ろう者の視点であなたに寄り添う」想いは、聴者にもろう者にも届いているようだ。【遠山清一】

監督:レティシア・カートン
2015年/フランス/フランス語・フランス手話/112分/ドキュメンタリー
原題:J’avancerai vers toi avec les yeux d’un sourd
配給:アップリンク、聾の鳥プロダクション 2018年10月13日(土)よりアップリンク渋谷ほか全国順次公開。
公式サイト http://uplink.co.jp/vincent/
Facebook https://www.facebook.com/vincent.with.deaf.eyes/

*AWARD*

2015年:モントリオール国際映画祭正式出品、ルサス映画祭正式出品作品。

 

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