《レビュー》映画「夜明け」

シンイチを自分の木工所の手伝いをさせる哲郎 (C)2019「夜明け」製作委員会

《レビュー》映画「夜明け」

漠然とした不安の海を漂う心優しき人たち

大学を卒業したものの定職に就かず自己肯定感も低い一人の青年。おとなしい性格で人の好さそうな青年に出会った職人気質の木工所の親父さんは、親身になって手を差し伸べようとするが何かが噛み合わないもどかしさ。家族を捨ててどうしようもなく彷徨う青年と、妻子を亡くした壮年は、同じ年頃の息子が生まれ変わったかのような眼差しで青年を見守ろうとする。だが、“寄り添う”“手を差し伸べる”という“優しさ”の奥にある本音を窺い、そうした“優しさ”に重荷を感じて素直になれない青年の内面を見つめる演出に引き込まれていく。何かを引きずる取り返しのできない出来事に傷つき、漠然とした不安の海を漂う心優しき人たち。ラストシークエンスでの柳楽優弥の演技と「夜明け」の邦題が、広瀬監督の“弱い”人たちへの眼差しに温もりを感じられて印象深い。

挫折し自殺未遂の青年と妻子を亡くした壮年の出会い

夜明けの鉄橋の中ほどに一人たたずむ青年(柳楽優弥)。何かを叫び、そして川に飛び込んだ。翌朝、川釣りにやって来た涌井哲郎(小林薫)は、水際に倒れていた青年を見つける。軽トラックに載せて自宅で介抱する哲郎。意識を戻した青年は、シンイチと名乗った。その名前は、数年前に交通事故で妻とともに亡くなった息子の名前と同じだった。哲郎は、少し元気になったシンイチを自分が経営する木工所へ連れて行き、しばらくアルバイトで働いてから行く当てを考えろと勧める。

木工所の経理を担当する成田宏美(堀内敬子)は、哲郎の再婚相手で結婚式の日取りも近いようだ。従業員は歳が近い庄司大介(YOUNG DAIS)と古株の米山源太(鈴木常吉)。二人とも訳アリな感じのシンイチを見ても、毛嫌いすることもなく面倒をみようとしている哲郎の気持ちを汲んでいるかのように見守る。

シンイチは哲郎の家では亡くなった真一の部屋で寝泊まりしながら、木工所の仕事が慣れるにつれ庄司や米山たちにも馴染んでいった。哲郎にも、隣町の大学に通っていたが、卒業しても都合しても満足な就職口にも就けなかったことや、優秀な兄たちがいて自分も期待されたが支配的な父親に反抗して家を出たなどと自分の身の上を少しずつ打ち明ける。哲郎も交通事故で亡くなった妻と折り合いが悪かったことや、息子の真一と口げんかした日に二人が交通事故死したことなどをシンイチに語り始める。そして、哲郎は仕事の覚えが早いシンイチに対する期待が徐々に高まり、やがて亡くなった息子・真一にかけていた思いと重なっていく。

一方、恵子は結婚式が近いというのにシンイチのことばかり気にして式の準備や二人の生活設計などについて話そうとしない哲郎に苛立ちを覚える。また、庄司が付き合っているスナックの女の子が、同じ大学に通っていたときシンイチがコンビニのアルバイト定員をしていたのを思い出したという。そのコンビニは数年前に火事で全焼し、大やけどをした店長はつい最近亡くなったという。シンイチと関りがありそうに話す彼女に庄司は無暗なことを言うなと諫めるのだが…。

(C)2019「夜明け」製作委員会

消したい過去の出来事に明日への日差しを遮る心

定職に就けず、何事にも自信が持てず期待されることや責任を担うのを恐れるやりたいことも見いだせないシンイチ。弱々しさに周りの同僚は手を指し伸ばそうとするが、他人に頼ることさえ恐れている。芯の折れたような心に消したい過去の罪悪感さえ漂ってくる。修復しがたい心の傷を負わせたまま交通事故死した妻子に、解決できないわだかまりを抱き続ける哲郎。それぞれに消してしまいたい過去の出来事に苛まれている。自分が直接手を下していなくても心を覆う罪悪感の重み。ナイーヴなシンイチの心の揺らぎが、痛々しくも切実に伝わってくる。何かが解決したわけではないが、哲郎の申し出に何かがはじけた夜明けの浜通りを駆け抜けるシンイチ役・柳楽優弥の微妙な表情には、黎明の空気感が漂っていて心に残る。 【遠山清一】

監督・脚本:広瀬奈々子  2019年/日本/113分/映倫:G/英題:His Lost Name 配給:マジックアワー 2019年1月18日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー。
公式サイト http://yoake-movie.com
Facebook https://www.facebook.com/yoakemovie/

*AWARD* 2018年:釜山国際映画祭コンペティション(ニューカレンツ部門)出品作品。第19回東京フィルメックス「スペシャル・メンション」受賞。

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