《旬人彩人》羊毛フェルト作家 泉谷千賀子 

  • 2018/6/25
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一針一針祈りを込めて

羊毛フェルト作家・泉谷千賀子

福島県出身の羊毛フェルト作家・泉谷千賀子さん。羊毛フェルトで作った動物たちと聖書のことばのコラボレーション写真絵本『みつけたよ』を出版。一般の大型書店でも評判を呼んでいる。その作品には深い祈りが込められている。

羊毛フェルトで作った動物たちと聖書のことばのコラボレーション写真絵本『みつけたよ』(フォレストブックス)の作者で、羊毛フェルト作家の泉谷千賀子さんのワークショップが評判を呼んでいる。昨年(2016年)のクリスマスシーズンには大阪のキリスト教書店で、2017年1月には東京銀座の教文館で開かれて、参加者はクリスマスオーナメントやイースターの卵作りを楽しんだ。大型書店で開かれた作品展示も好評を博している。

「羊毛フェルトの作品作りに必要なものは、羊毛と針とちょっぴりの愛!」だと、泉谷さん。そこから生み出される羊や子スズメやロバたちは、それはそれは温かく優しく愛らしい。ただ可愛いだけではなく、見る人の心を惹きつけるのは、漂うユーモアや哀感だ。福島県出身の泉谷さんの作品には、大きな悲しみの中で声もなくたたずむ人々を想う、深い祈りが込められている。

チクチクと針で刺し固める工程は祈りの時間

生まれも育ちも福島県。詩人の高村光太郎が歌った「ほんとの空」のある、実り豊かな土地を愛してきた。結婚して夫の転勤で大阪に来て十年以上たつ。関西の友人に、語尾の上がるおっとりした福島なまりで故郷の美しさを語る。

子どもの頃から手芸が好きで、結婚後手芸教室を開いた。羊毛との出合いは、子どもが小さかった頃に訪ねた小岩井牧場だ。羊の毛の刈り込みを見に行って、そこで売っていた羊毛を買ってみた。「ふわふわ」が実に心地良かった。当時泉谷さんが手掛けていたのはアートクレイシルバー(銀粘土)。「堅い粘土を扱っていたから、よけいにふわふわの良さを感じたのかもしれませんね」と、振り返る。

羊毛フェルトの作品作りはほぐした羊毛を針で刺し固めるという時間のかかる作業。一体の動物を作るのに丸2日はかかるが「羊毛は温かくて優しくて、さわっていると心がやわらかくなってなごみます。作っている過程で癒やされます」という。チクチクと針で刺して形作る工程は、泉谷さんの祈りの時間でもある。

「昔の人は愛する人たちのために、祈りながら夜なべの手仕事をしていたのだと思います。昔の手仕事の中には祈りがあったと思うのです」

泉谷さんは10年前に洗礼を受けた。クリスチャンだった母から聖書のことばを教わった子ども時代。ミッション系の学校に通ってキリスト教には親しみがあった。夫の転勤で関西に来てから後、つらい時期にカトリック教会の礼拝堂で、手を差し伸べるマリア像に心を打たれた。

「そのとき私は、このままどさっと誰かの手に倒れ込んでしまいたかった。その開いた両手は、自分を整えなくてもいい、ありのままでいい、さあおいで、と言っているようでした」

その後プロテスタント教会で受洗した。母は娘がキリストに出会えるように祈っていてくれたのではないか、その祈りが40年を経て芽吹いたのだと、泉谷さんは思っている。

「涙のその人の中にイエス様がおられたと思う」

手芸教室のかたわら、故郷の福島で毎年手芸の作品展を開くのを楽しみにしていた。物作りが好きで、自分が楽しむためにやっていたことが一変したのは、2011年3月11日。福島は地震と津波に襲われ、原発が爆発した。

「私には何ができるのだろうと悩み続けました。初めて人のために役に立ちたいと、心の底から思いました。自分のためという気持ちはどこかに行ってしまいました」

震災で多くの親しい人が被災した。心を痛めながら友人を慰めた。

「友達は目にいっぱい涙をためて、遠くにいるあなたに何がわかるの、と言いました。忘れられません。苦しむ人のために何かしているつもりでも、それはやはり第三者の痛みなのです。一人称の痛みではないのです。人の苦しみを一人称の苦しみにはできないのです」

それでも、できる精いっぱいのことをしたいと、泉谷さんは作品作りに取り組んだ。

「私が大金持ちなら寄付をしたい。歌手なら歌って慰めたい。でも、私にはフェルトをチクチク刺して物を作ることしかできない。だからすべての思いを込めて作りました。誰かが笑ってくれたらいいなと願って」

この子が誰かを笑顔にできたらいいな。作品を持って福島で展示会を開いた。震災後1年たった頃だった。仮設住宅に住んでいる女性が見にきてくれた。

「その女性は、仮設に飾るわと言って、小さなマスコットをにぎりしめてぼろぼろっと涙をこぼされました。その涙が私の中で今も乾いていないのです」

その出会いは泉谷さんの物作りの新たな原点となった。

「涙のその人の中に、イエス様がおられたと思います。被災された方々に出会わなかったら、私はうすっぺらの人間のままで終わっていた。あの方々が私を変えてくださったのです」

写真絵本の出版を機に、泉谷さんは作品展示やワークショップの開催に加えて、テレビやラジオや新聞などメディアで紹介されることも多くなった。さまざまな場所でキリストの愛を伝え、福島を忘れないでと呼びかけることができる。

「今福島には風評と風化という風が吹いています。でも、私は3つめの神様の息吹の風を信じています」

小学生の時、学校の社会科見学で原発に行った。その後「明るい未来のエネルギー」について作文を書いた。皆が何の疑問ももたずに暮らしていた。

「大昔の人は、自分で消せない火は使うなと、教えていたのですが」

福島には、話したいことを心の中に閉じ込めている人がたくさんいると、泉谷さんは感じている。言いたいことはいっぱいあっても言えないのだ、と。故郷の傷はいつ癒えるのか、先は見えないけれど「もし、日本中どこでも、生まれなおしていいよと言われたら、やっぱり福島に生まれたいです」

泉谷さんの絵本『みつけたよ』に登場するのは、聖書でおなじみの羊とスズメとロバ。カメラマンの酒井羊一さんが、さまざまなアングルから、迷子になった羊の哀れさ、取るに足らないスズメの悲しさ、重たい荷物を背負うことのできない子ロバのつらさを撮影した。人間世界の弱者の象徴のような動物たちを通して、泉谷さんはごく短い文と聖書のことばで、キリストは弱く目立たない存在に目を留め、満杯の愛で満たしてくださるのだと語りかける。

「見つけられたのは私。私がイエス様に見つけていただいた。今つくづくそう思うのです。神様の召しを受けた者として、神様のみわざの中に生きていきたいと、心から思います」

羊毛フェルトからロバや羊が生まれると、泉谷さんは話しかける。

「誰かを幸せにしてきてね」

「うん、わかった」

笑えなかった人がにっこりしてくれたらいい、がまんして泣くこともできなかった人が泣いてくれたらいい、悲しむ人を想って、泉谷さんは作品に祈りを込める。

『みつけたよ』 フォレストブックス/1300円+税 巻末にオーナメントと小羊の作り方も掲載されている

(取材:藤原富子)
<「百万人の福音」2017年4月号より>

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