《旬人彩人》スーパー主婦 井田典子

3/4で暮らそう

スーパー主婦

井田典子

NHK情報番組「あさイチ」や雑誌「婦人之友」、各地での講演などで、暮らしの工夫・片付けなどのアドバイスを行い、「スーパー主婦」と呼ばれている井田さん。未曾有の大災害が起こった2011年3月11日。翌日、担当していた雑誌連載の取材予定日だったが、電車は動かず、取材班は家に来ることができなかった。連載に穴は空けられない、何か執筆しなくてはいけない、そんな状況で井田さんに「与えられた」ことばが、「3/4で暮らそう」だった。

 

プロフィール:(いだ・のりこ)相模友の会員。整理・収納・時間の使い方などを子育て家庭にアドバイスする他、各地で講演を行っている。雑誌「婦人之友」やNHK情報番組「あさイチ」においても、生活の工夫や片付けのポイントを紹介。2男・1女の母。ECC・相模原グレースチャペル会員。

 

自分で切り開こうとして

 井田さんは、1960年、広島に生まれた。家族親戚、近所、皆浄土真宗を信仰し、特に本家である実家は熱心に宗教行事を行う家だった。しかし、母親が、クリスチャンジャーナリストであり教育者である羽仁もと子の立ち上げた「友の会」に所属するようになり、井田さんはカトリック系の幼稚園、大学に通った。
 「学校と、母を通しての『友の会』からキリスト教には触れていましたが、学問の一つだと思っていました。自分の人生は自分で切り開いていくものだと思っていました」
 家を離れ、結婚した井田さん。子どもを望んだが5年経っても与えられなかった。
 「子どもがほしいのに、なかなか妊娠しない。不妊治療をしても結果が出ず、諦めそうになっていた時にようやく与えられたのです。その時の日記には『神様ありがとう!』と書きました」
 命、根源的なものは人間の力ではどうしようもない…。神秘的な力を感じたが、日々の育児の忙しさに、その時の感動は薄れていった。
 そうして生まれた長男が中学3年生になった頃。それまで勉強も部活も熱心に取り組んでいたが突如不登校になった。
 「息子は文武両道を目指す進学校に行き、周囲の期待に応えようと努力していました。でも、テニス部の部長として迎えた3年最後の公式戦で腰椎剥離を起こしていたのに、無理をして出場し、痛みで試合にならず、団体戦で負けてしまったのです。初めての挫折とその屈辱感から、その日を境に学校に行かなくなりました。髪を染め、耳にピアスを開け、友達も変え、たった1か月で別人のようになってしまったのです」
 それまでは不良少年の親はどんな親だろうと、思ってきた自分を恥じた。ささいなことがきっかけとなり、人は変わってしまうことを知った。
 息子が幼い時、道に飛び出して車にぶつかり、怪我をしたことを思い出した。幸い大事には至らなかったが、息子は痛がるよりも先に「ママごめんなさい」とひたすら謝り続けたのだ。
 「怖い母親だったのでしょう。私は息子を一生懸命育てているつもりだったけれど、息子の気持ちには無頓着でした。息子は我慢し、いい子を演じてきたからこそ、たがが外れてしまったのかもしれません」
 家を出ても学校に行かず、いつ帰ってくるかわからない息子を待つ日々。やるせない思いをぶつけるように一つ一つ引き出しを開けては整理をした。
 「何でも自分でできると思っていたおこがましさにやっと気づきましたが、どうしようもありませんでした。その時、目に見えるところから整え始めたのです。そうすることでしか気持ちの整理ができませんでした」

 

光の射す方へ

 2010年に相模友の会の代表になった。一会員として連なる気楽さとは異なり、その責任の重さに押しつぶされそうになった。人と人の協力でしっかり結ばれているはずの関係が、小さな誤解からあっさりと断たれてしまうという経験もした。
 そんな折り、友の会では毎年クリスマス礼拝をしており、牧師を招くことになっていたため、人選のため近隣の教会を訪ねてまわった。
 「最後に行ったのが、いちばん小さく、牧師の家を開放して礼拝している教会でした。でも、礼拝で牧師のメッセージを聞いた瞬間、『あ、私はここに来ることになっていたんだ』と直感したんです」
 それまでキリスト教を理屈で考え、自分を丸ごと投げ出して神様との関係を作ろうだなんて考えもしなかったことに気づき、神様の方角へ向きたい、光の射す方へ向きたいと思った。
 「息子のことも友の会のことも自分でなんとかしよう、ではなく、どうしたらいいんでしょうか、と神様に聞くことができる、祈ることができることを知りました。ようやく重たい肩の荷を下ろすことができた喜びに、涙が止まりませんでした。今まで光の方角はわかっていたような気がするのですが、心のガラスが曇っていて、よく見えなかった。祈りの中で少しずつガラスが磨かれクリアになっていくようでした」
 震災後すぐのイースターに受洗した。

 

暮らしにものさしを

 震災直後は社会が混乱し、買い占めに走る人々もたくさん現れた。
 「震災後、買い占められ空っぽになったお店の棚などを見ながら、自然に『3/4で暮らそう』ということばが心に浮かびました。時間もお金も神様からの恵みなのだから、自分のためだけに使うべきではないと感じたのです。また本当に持っているもので足りていないのか、吟味する必要も感じました。もしかしたら私たちの心が飢え渇き、どんなに物を持っていても足りないと感じてしまうのではないかと思ったのです」
 人間は枠の中で暮らしている。時間やお金をどのように使うか、つまりどのように枠の中で仕切るかはその人次第。
 「暮らしにものさしをもつことが大事だと思っています。物を適量に保つことは、神様に与えられた物を知り、有効に使い切るということです。家計の管理、時間の管理をすることは神様への報告書のようなものです。今の暮らし方が、神様のみこころにかなっているのかと考えられるきっかけにもなりますし、生かされている喜び、恵みを数える時でもあります」
 単に知識や技術で終わることなく、与えられた神の恵みに気づき、神の思いに心を向けるきっかけとしての片付け、時間・金銭の管理。今まで生きてきた道がつながり、すっと引き上げられ、俯瞰して見えるような気がしたと井田さんは言う。講演活動やメディア出演、片付けでの家庭訪問等、多忙を極めるはずの彼女からは疲れの色はなく、神様に与えられた1日を心から楽しんでいるように見えた。
(取材:宮田真実子)

<「百万人の福音」2017年1月号より>

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