《レビュー》映画「ゴッホとヘレーネの森 クレラー・ミュラー美術館の至宝」

  • 2019/11/3
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案内役の女優バレリア・ブルーニ・テデスキ (C)2018- 3D Produzioni and Nexo Digital – All rights reserved

《レビュー》映画「ゴッホとヘレーネの森 クレラー・ミュラー美術館の至宝」

芸術に神への絶対的信仰を求めた二人

「ひまわり」「糸杉」など大胆な色彩と日本の浮世絵の画風を取り込むなど日本でも人気の高い後期印象主義の画家フィンセント・ファン・ゴッホ(1853年3月30日~1890年7月29日)。僅か10年ほどの画家としての活動期間に油彩画860点、素描1000点も遺したファン・ゴッホの絵画を個人として約300点蒐集し美術館まで建設したヘレーネ・クレラー=ミュラー(1869年2月11日-1939年12月14日)。キリスト教の教義的な面には馴染めないまま、芸術のなかに神への絶対的信仰を探し求めた二人の物語は、魂の絆を撚り込んでいく清廉な空気に包まれるドキュメンタリーだ。

現実の厳しさを見つめ、苦悩し、悲しみを癒す

タイトルロールまでの約10分、イタリア出身でフランスで活躍する女優バレリア・ブルーニ・テデスキがナビゲーター役を務め、ファン・ゴッホの生い立ちと狂気をはらんだような描くことへの情熱と行動が“錯乱”と呼ばれ、売れない画家として人々の記憶から消え去られてしまうような生涯を語り始める。ファン・ゴッホは死ぬ数週間前に教会の絵を描いているが、その絵もほかの絵画と同じように人々に評価されることなく消え去りつつあった。だが、ファン・ゴッホの死から10年後、オランダの大富豪ヘレーネ・クレラー=ミュラー夫人が、ファン・ゴッホ作品のコレクションを始め、やがて88点の油絵と素描180点にものぼるファン・ゴッホの個人蒐集家として世界2番目に大きい所蔵をなし美術館を建設しファン・ゴッホの作品を後世に遺す多大な貢献者として紹介される。

フィンセント・ファン・ゴッホは、オランダ南部フロート・ズンデルト村のオランダ改革派教会の牧師テオドルス・ファン・ゴッホを父に母アンナとの長男として生まれた。名前は死産だった兄の名をそのまま受け継がされた。親戚の助力を得て美術商グービル商会に勤めるが4年で解雇。伝道師をめざすが挫折し弟テオの勧めもあって画家の道へ。最初期にバルビゾン派のジャン=フランソワ・ミレーの絵画と生き方に影響を受け質素と苦悩のなかに真実を探し求める。現実の厳しさからの解放を人々に美と休息を提供できる芸術を求め様々な画法に取り組んでいくファン・ゴッホ。

教会で心が石のように固まっても不思議ではない

ヘレーネ・クレラー=ミュラー (C)2018- 3D Produzioni and Nexo Digital – All rights reserved

弟テオへの手紙で「教会で心が石のように固まっても不思議ではない。聖職者たちの神は死んだも同然なのに、僕は無神論者になれない」と吐露したファン・ゴッホ。彼の死後、新たな技法で描く絵画のなかに真実なものを見出そうとするファン・ゴッホの求道に、大富豪のヘレーネ・クレラー=ミュラーの心が響き合う。彼女も「ファン・ゴッホと同様に、私も神が信じられなかった。あれは偽りの神よ」と、堅信礼を拒否し家族のなかで理解されない時期を経てきた。夫アントン・クレラーと娘の教育のために画家で美術教育家ヘンク・ブレマーの美術鑑賞講座に出席したのを契機に、ファン・ゴッホの芸術に心酔し、富豪には珍しく質素な暮らしの中にファン・ゴッホが求めた絶対的な真実なものへの信仰を求めていく。ファン・ゴッホへの献身的な行動は、ピカソ、スーラ、モンドリアンなど当時の最先端の美術コレクションも充実させ晩年にはクレラー=ミュラー美術館を完成させ初代館長に就任する。

原題の直訳は“ファン・ゴッホ ー 小麦畑と曇り空”といった意味。邦題の“ヘレーネの森”はクレラー=ミュラー美術館が在るオランダのデ・ホーヘ・フェルウェ国立公園の広大な森を指す。美術史家マルコ・ゴルディンはじめ現在のクレラー=ミュラー美術館館長リセッテ・ペルーサス、元ファン・ゴッホ美術館コレクション部長やヘレーネ・クレラー=ミュラーの伝記作家らが解き明かす、芸術をとおしての二人の心の交流とファン・ゴッホの絵画の深みを伝えてくれる。生前に一枚しか売れなかったといわれるファン・ゴッホの絵画。生前の手紙に「僕は人々にこう言ってもらいたい。深く細やかに心が動かされる作品だと。粗野と言われる作品でも、実は緻密なのだ」と書きのこしたファン・ゴッホ。そのことばに響いたヘレーネとともに本作に登場する数々の作品に魅入り、心動かされたい。 【遠山清一】

監督:ジョヴァンニ・ピスカーリオ 2018年/イタリア/イタリア語、フランス語、英語/90分/ドキュメンタリー/原題:Van Gogh – Tra il grano e il cielo 英題:VAN GOHO – OF WHEAT FIELD AND CLOUDES SKIES 配給:アルバトロス・フィルム 2019年10月25日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://gogh-helene.com
公式Twitter https://twitter.com/AlbatrosDrama
Facebook https://www.facebook.com/albatrosdrama/

(クリスチャン新聞オンラインより)

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