《レビュー》映画「少女は夜明けに夢をみる」

  • 2019/11/9
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生きることに疲れたと言っていたハーテルだが… (C) Oskouei Film Production

《レビュー》映画「少女は夜明けに夢をみる」

“塀の中”で分かり合える仕合わせを知った少女たち

イラン国営の少女更生施設に収監されている十数人の少女たち。あどけない表情でオスコウイ監督のインタビューに答える罪状は、尊属殺人、強盗、薬物販売、売春など凶悪犯罪に劣らないことばかり。彼女たちに“おじさん”(母方の叔父の表現)と呼んでくれとオスコウイ監督が寄り添うように語り合うと、多くの少女たち自身が、家族・親族などから性的暴力を受け、薬物売買や売春などを強要されるような悲惨な情況に陥れられた被害者であることに暗澹とした思いになる。辛い経験に耐えられず家でをしても、仕事に就けない少女たちが生きる術は強盗、窃盗、売春の奈落へと落とされていく。逮捕され、厚生施設の“塀の中”で同じような悲しみと痛みに傷ついた出会い、分かり合える仕合わせを味わえた少女たち。その一人ひとりの生い立ちと現状に、イランだけの現実ではなく、経済格差は広がり、厚生省の「平成28年 国民生活基礎調査」でも公表された子どもの相対的貧困率15・6%で7人一人が貧困状態にあり、児童虐待のニュースが絶えない私たちへの衝撃的な問い掛けのドキュメンタリーでもある。

「いまの夢は?」
「死ぬこと」「生きることに疲れたから…」

厚生施設のオフィス。インクを塗られた指を指紋登録票に押し付けられるハーテレ。家出をして放浪罪(家出をして彷徨ていた)で逮捕され収監された。少女の意志は尊重されているようで、家族への連絡は拒否した。なぜ家出をしたのか?。大好きな姉の婚約が決まった後、祈祷師の叔父が祈祷師の叔父が姉に性的虐待を始めたことが分かり婚約破棄されてしまった。そのことが原因で母親はハーテレに暴力をなり家出したという。だが、家族のことが心配になり家に戻ったら、その祈祷師の叔父が自分の祈りでハーテレが戻ったと自慢し、そのあとハーテレにも性的暴行を始めた。ハーテレは母親に助けを求めて訴えたが、嘘つき呼ばわりされて殴られ、辛くなってまた家でをし放浪罪で逮捕された。うつ病にもなっていて腕にはリストカットの跡も生々しい。オスコウイ監督が「いまの夢は?」と尋ねると、うつむき加減に「死ぬこと」と答える。「なぜ?」の問いには「疲れたの…生きることに」

お互いの痛み

ハーテレが、手続きを終えて隔離棟の雑居房に行くと15、6人の少女たちが収監されている。みな、ここに収監される以前に“被害者”だった少女たち。オスコウイ監督は、おもにそのなかの7人について紹介していく。<名なし>と自称するシャガイエは、強盗、売春、薬物使用で収監されているが、叔父から性的虐待を受け過去がある。<ガザ―ル>は14歳の時に結婚してすぐに子どもを産んだ。その夫からクスリの売人をやるよう強要され逮捕された。2歳になる娘とは7カ月前に会えたが、会いたい親心が切ない。<アヴァ>は、ほんとうは大好きな母親にひどい暴力を振るって逮捕された。兄も死刑判決を受けて刑務所にいる。<651>は、逮捕されたときに所持していたクスリのグラム数を自称名にしている。クスリを買うお金欲しさに母親に暴力を振るってしまったことを悔やんでいる。<ソマイエ>は、母と姉と共に父親を殺害した。母親は死刑判決を受けた。「娘に売春させてクスリを買うような男が私たちの父親なの。全員よく知っている。お互いの痛みを理解し合っている」とオスコウイ監督に答えることばが耳に残る。釈放が決まった<フェレシュテ>だが、喜びの表情はない。更生施設で少女たちといるよりも、家に帰る方が過酷な生活が待っていることを知っている。父親へ恐れを更生施設の職に員に訴えるが、「手続きして、施設から出てもらう。その後は、家族と一人で向き合うしかない」と現実を衝きつっけられる。更生施設の職員は、収監中の少女たちを守ることが職務であって、出所後の人生を切り拓いていくのは少女自身の課題でしかない。兄弟姉妹たちと強盗を働いた<マスーメ>は、恋人ハサンとの結婚への夢をノートの書き綴り、毎日ハサンのことを考えている明るい性格。一方で自分の首をつるしたイラストも描いている…

家族に連絡することを拒否したハーテレ

この更生施設には、いじめはないという。こころの痛みをわかりあるからだろうか (C) Oskouei Film Production

ハーテレの釈放が決まり、<名なし>も釈放が決定した。家族に連絡することを拒否したハーテレは、出所後をどう考えるのだろうか。所内で明るくムードメーカー的存在だった<名なし>の願いは。老親の家ではなく祖母に引き取られること。その願いは届くのだろうか…。イスラム社会の男性優位観のなかで苦海へ放出される少女たちの現実を更生施設から語るオスコウイ監督は、諦念だけではなくどこか少女たちの前へ歩み出すたくましさを感じさせてくれる描き方に救われる。

イスラム社会にあってイランの映画は、比較的日本でも上映されてきた。だが、映画を作りやすい環境ではない。ましてドキュメンタリー映画となれば、リサーチや撮影期間の制限は機微しく映像チェック、上映形態など制約される。本作はイラン国内での上映は禁じられたが、国際映画祭や外国での劇場公開など制限付きだが認められていたことは大きい。これは経済制裁を負わされているイランだけの現状ではない。日本の問題でもあり、どこの国にも問われている社会の歪みを見つめた普遍性を語るドキュメンタリーだ。オスコウイ監督は、厚生施設で撮影した少女たちが出所した後も関りを持ち、自立へのアドバイスと励ましを送っているという。 【遠山清一】

監督:メヘルダード・オスコウイ 2016年/イラン/ペルシア語/76分/ドキュメンタリー/原題:Royahaye Dame Sobh、英題:Starless Dreams 配給:ノンデライコ 2019年11月2日(土)より岩波ホールほか全国順次公開。

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*AWARD* 第66回ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門 アムネスティ国際映画賞受賞。第13回トゥルーフォルス映画祭トゥルービジョンアワード受賞。山形国際ドキュメンタリー映画2017 アジア千波万波部門正式出品ほか多数。
(クリスチャン新聞オンラインより)

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