《レビュー》映画「帰れない二人」

  • 2019/9/4
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姐御肌のチャオチャオは、恋人ビンをかばい修羅場を収める (C)2018 Xstream Pictures (Beijing) – MK Productions – ARTE France Cinema

《レビュー》映画「帰れない二人」

変わりゆく中国人の心情をラブストーリーで

昨年5月のカンヌ国際映画祭に中国人監督としては最多5回目の正式出品を果たしジャ・ジャンクー監督作品「帰れない二人」が9月6日からロードショー公開される。中国が国家プロジェクト・西部大開発計画を開始した2000年から北京オリンピック(08年)開催など国際社会に飛躍した2000年代初頭からの17年間を時代背景に、裏社会に生きる男女二人の心の機微をとおして人間の心情が複雑に変化していく在り様を描いた本作についてジャ監督に話を聞いた。 【遠山清一】

大同から奉節、新疆そして大同で
7700kmの壮大なラブストーリー

北京でのオリンピック大会開催が決定した2001年。山西省の中都市・大同(ダートン)近郊では、石炭の価格が下落し宏安鉱山の閉山が決まった。大同の繁華街で繁華街で羽振りをきかす江湖(渡世人)のビン(リャオ・ファン)。雀荘で仲間内の金銭のもつれから起きたいざこざを収め、あらためて一同と盃(さかずき)をあおり義兄弟の契りを結ぶ兄貴分の存在で仲間たちからの信頼は厚い。ビンの恋人チャオチャオ(チャオ・タオ)は、ビンの仲間たちからは姐御(あねご)と呼ばれ一目置かれているが、自身は江湖の自覚はなく炭鉱を失職した父親と西部大開発計画の経済成長の軌道に乗る新疆への移住を考え、ビンといっしょに家庭を気づきたいと願っている。だがビンは「俺たちはぐれ者に新天地などない」と断る。

大同に江湖の仁義を重んじない新興ヤクザがのし上がってきた。大同の顔役を倒して勢力拡大を目論む彼らに狙われたビンは、車で移動中に取り囲まれ大けがを負う。その窮地をチャオチャオがビンの拳銃で威嚇射撃してが収める。だが、ビンをかばって警察に自分の拳銃だと言い張ったチャオチャオは、ビンよりも重い5年の懲役刑の判決を受けた。

再生可能エネルギー法が施工された2006年。父親は他界したが、刑期を終えたチャオチャオは既に刑期を終えているビンの行方を捜す。だが、音信不通で見つからない。チャオチャオは、ビンが面倒を見ていたリン・ジャードン(ディアオ・イーナン)が勤めている奉節(フォンジェ)の会社を訪ねると「会ってはいないが、発電関連の仕事をしている」とだけ答える。そして、リンの妹ジャーイエン(キャスパー・リャン)から「いま、ビンさんは私の彼氏」と告げられるが、チャオチャオは「彼と直接話す。彼と私の問題だから」と答えて去る。どうにか発電所にたどり着き警備室の警備員に連絡して持ってビンと再会できたチャオチャオ。だが、二人の間に深い溝ができていた。ビンは「厄落としをする。火を跨ぐんだ」と言って洗面器に入れた新聞紙に火をつけ、チャオチャオの手を引いて跨がせる。ビンと別れたチャオチャオは新疆へ向かう汽車に乗る…。

再び大同に帰ったチャオチャオは、病で障害を負ったビンを呼び寄せ世話をしようとするが… (C)2018 Xstream Pictures (Beijing) – MK Productions – ARTE France Cinema

中国語・英語・日本語タイトルで
三様多彩に表現される物語

本作のタイトルは中国語・英語・日本語それぞれに物語の多彩な内容を表現している。中国語は「江湖儿女」(江湖の息子たちと娘たち)、英語は「Ash Is Purest White」(灰は最も白い)、邦題は「帰れない二人」。ジャ監督は「中国語と英語のタイトルは私が決めました。日本語タイトルは日本でつけられたものですが、私も気に入っています」という。

中国語の「江湖」は聞きなれないキーワード。本作の字幕では「渡世」「渡世人」と翻訳されているが、一言では表現しにくい多様な意味が込められている言葉のようだ。ジャ監督は「“江湖”は、川と湖という文字の意味以上に、“真に危険な世界”“激しい感情の世界”の意味もあり、故郷を持たない流浪の民の居場所です。本作では、山西の裏社会での新しい世代の台頭と古い世代が抱く危機感として“江湖”が出現します」という。「儿女」という言葉は「愛し合い、憎み合う、男と女を暗示しています。この二つの言葉を組み合わせると、世間の流れに逆らおうとする人々、優しさと敵意、愛と憎しみによって生きる人々を想起させる」という。

英語タイトルは「ビンがチャオチャオに拳銃の撃ち方を教えた大同の山を望む所でチャオチャオが、『ここは火山なのか』とビンに聞くシークエンスで『火山灰は高温で熱せられているから一番純潔だ』とビンが話します。なにを意味しているかというと、チャオチャオの思いは打ち砕かれていったわけですが、でも、そこにまだ情が残っている、その残った情こそが純潔なものなのだという意味で、英語のタイトルに着けました」。

ジャ・ジャンクー(賈 樟柯)監督

裏社会の仁義に生きる男女から
複雑化する中国人の心情を描く

本作では、ジャ監督自身の作品には「青の稲妻」(2001年)や「長江哀歌」(2006年)などとの関係性を強く感じさせられる。主人公のビンとチャオチャオは、「青の稲妻」の主人公と同じ名前で、チャオチャオのヘアスタイルの同じおかっぱ頭。チャオチャオが長江の客船に乗って三峡を経て奉節に着いた時のファッションは、「長江哀歌」の主人公シェン・ホンとほとんど同じ。本作が激動の現代中国を舞台にラブストーリーで描かれている理由と共にこれらの作品との関連についてジャ監督に聞いた。

「偶然なことだったと思います。本作の第1稿を書いているとき、『青の稲妻』のチャオチャオとビンの二人の成しえなかった関係や語りきれなかったこと、『長江哀歌』のなかで表現できなかったラブストーリーがあったはずなんです。それを、今回はこの物語のなかで描こうとしました。
私は『山河ノスタルジー』あたりから社会を見る方法が変わってきたと思います。今回、18年という長い時間軸にしたのは、人間がどのように変化していくかはある程度時間を経ないと描き切れないと考えたからです。ですから今までよりもマクロな視点で社会を見たい、長い時間をとらえた中で人間の捉え方を考えようと思いました。

なぜラブストーリにしたかというと、中国人の感情の表現方法も変わってきているからです。以前は、男女間は誠実であること、歳をとって死ぬまでいっしょにいるということが普通でした。そして、犠牲を惜しまないで相手のために尽くすということ、これがスタンダードな男女の間の誓いでした。それが、社会の大きな変化の中で男女間の関係の在り方がだいぶ変わってきています。人間が長い時間のなかでどう変わっていくかということは、ラブストーリーにすることによってより明確に描けると思ったからです。

ジャ監督のユーモアが
随所にあふれている

本作にはディアン・イーナン、チャン・イーバイ、チャン・イー、ドン・ズージェン、シュー・ジェンらの監督仲間がカメオ出演しているのも見どころの一つ。シュー・ジェン監督が演じたカラマイから来た男と夜行列車で乗り合わせたチャオチャオが、新疆のある駅で置き去りにして降りると夜空にUFOの光に包まれるシーンなど随所にジャ監督のユーモアがあふれている。
「新疆の駅に降り立った時のチャオチャは、非常に複雑な心理状態になっています。それまでの父親との関係、恋人ビンとの関係、そして裏社会の義兄弟たちとの関係など絶えず複雑な人間関係のなかに置かれて、それらを処理することに必死に生きてきました。その中で、自分を大事にして、自分を感じるということがほとんどなかった。だが、新疆に着いて満天の星空にUFOが飛来してきたのを見たということは、彼女自身の世界がそこにあるということ、自分の生き方があることを自分自身で感得でき信じられるということを表現したかったのです。そのシーンにきて宇宙との関係にも非常に興味を憶えて、描いてみたいと思いました」。

ジャ監督の映画には、日本人でも知っているヒット曲がよく使われている。本作でもジョン・ウー監督の「狼/男たちの挽歌・最終章」でサリー・イップが歌ったテーマ曲「浅酔一生」やヴィレッジ・ピープルの「YMCA」などが挿入されている。時代を描くうえでヒット曲を使う理由についてジャ監督は

「観客が、その曲を聴いただけで自分が初めて聞いた年代に帰れる、その当時の思いが蘇ってくるという強烈な印象を持つ曲を挿入することで、その時代を思い出させる効果があります。そして、中国人は自分の思いを表現することが非常に苦手な、シャイな人たちだと思っています。ですから、自分の内なる思いを表現するのにヒット曲やダンスを使ったりします。また、14億人という中国の人たちが、みんなある曲を知っているというのはすごい情況ですよね。それもおもしろいことですよね」。

監督:ジャ・ジャンクー 2018年/中国=フランス/135分/原題:江湖儿女、英題:Ash Is Purest White 配給:ビターズ・エンド 2019年9月6日(金)よりBunkamuraル・シネマ、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://www.bitters.co.jp/kaerenai/
Facebook https://www.facebook.com/JiaZhangkeJP/
公式Twitter https://twitter.com/Jia_Zhangke

*AWARD* 2018年:第71回 カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品。第54回シカゴ国際映画祭監督賞・女優賞受賞。第13回アジア・フィルム・アワード最優秀脚本賞受賞。第21回アジア太平洋スクリーン・アワード女優賞受賞。第19回ダブリン国際映画祭審査員特別賞受賞。第25回ミンスク国際映画祭監督賞・女優賞受賞。
(クリスチャン新聞オンラインより)

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