《証し》バイオリン奏者 谷本 仰さん

  • 2019/9/10
  • 《証し》バイオリン奏者 谷本 仰さん はコメントを受け付けていません。

《証し》バイオリン奏者・日本音楽療法学会認定音楽療法士 谷本 仰さん

路上の人々と出会い音楽が変わった

 つややかな弦の音をメロディアスに奏でるかと思えば、意外な音や歌の連続で笑いを誘い、電子楽器や日用品の「ノイズ」も交えて哲学的、神学的な音の世界をかいま見せた。九州を拠点に、牧師、バイオリン奏者、音楽療法士と様々に活動する谷本仰さんが、今年、全国各地で公演を実施している。7月には関東ツアーを挙行、11日は東京・文京区の富坂キリスト教センターでトーク&ライブ「ワタシのオンガクをシンガクするココロミ」が開催された。演奏と共に、自らの歩み、独特の演奏スタイルの背景を語った。7月のイベントでは、社会や人間の様々な痛みに触れながら、軽妙なトークも交え、会場は沸いた。今後も各地でライブや講演が予定されている。【高橋良知】

美しく整えられた音楽よりも

人間の現実に関わる音楽に興味

 ライブ冒頭では「美しき天然」「竹に雀」などチンドン屋で歌われている曲を客席と一体になって演奏。「昔から体が動く音楽、路上の音楽にひかれてきた」と言う。

 幼い頃、コンサート番組をみて、見よう見まねでバイオリン演奏のそぶりをした。「今思うと、音よりも動きながら音楽をすることが好きだった」と話す。その後、音楽教室に通い、小学生で参加した弦楽合奏団ではコンサートマスターも務めた。大学時には、米国サザンメソジスト大学の芸術学部に1年間留学。練習に没頭し熱心に学んだ。学部長から直々に大学院入学を勧められるほどだった。

 しかし、帰国後人生観を変える出来事が起きた。同級生や先輩らに誘われてドヤ街釜ヶ崎を訪ねたのだ。「道端で倒れている人がいた。彼らの権利を守るために闘っていたボランティアが警察に殴られている姿も見た」。年間何百人も死んでいる路上と、きらびやかなクラシックのステージとのギャップを感じ、音楽活動はやめて釜ヶ崎の活動に没頭。天皇制、在日コリアン、部落解放活動など、社会の中の様々な問題を知った。西南学院大学神学部を卒業後、南小倉バプテスト教会で牧会を始めた。友人の教会を訪ねたあるミュージシャンをきっかけに、バンド活動に参加し、現在はタンゴの楽団にも入っている。

「路上の人々と出会って音楽が変わった」と言う。「美しく整えられた音楽よりも、人々の悲しみ、怒り、喜びに響き合う音楽、現実の人間の生活に関係している音楽、生き死にに関係する音楽に興味を持ちました」

「私」は意味を行き来する「渡し」

「境界線」そのものを問う

「アメイジンググレイス」の演奏では、途中から「一つの音を二つ三つに割って出す」という技法で演奏し、童謡「海」に展開させた。「音楽教育では、バイオリンは一つの芯のある美しい音を出すことが正しい。しかし、それでは人間の事実に反する。人間は、悲しいこともうれしいこともある。亡くなった人を思い出すとき、楽しいのと同時に涙が出ることもあります」

 「『アメイジンググレイス』と『海』を並べることで、『アメイジンググレイス』の由来となる奴隷船の物語と響き合った。“意味”は一つだけとは限らない。二つ以上のことを行ったり来たりするのではないか」と述べた。「本業は何ですかと聞かれることもある。かつては牧師と言っていたが、それだけでいいのか。演奏、音楽療法、父としてのあり方、それぞれが大事ではないか。船が島と島を行ったり来たりするように、音楽の現場で感じたことに牧師の働きが影響を受けることもある。相互に関係し合っている。これこそ『渡し船』ではないか。今回のライブのタイトルにある『ワタシのオンガク』の『ワタシ』は『私』だけでなく『渡し』でもあります」

「旧約聖書では、『二心』という言葉もあるように、境界線があいまいになることが汚れと思われていた。中と外は別世界であるべきという考えがあった。イエスはどうか。『私のところに答えがある、教えよう』と話しているイメージでとらえられていないか。実際イエスの周りには、病人や汚れているとされた人も集まった。イエスは『境界線を越えてはいけない』とは言わなかった。そもそも境界線とは何かを問うたのではないか」

 ボウルやおたまなど調理器具を鳴らす演奏もあった。無秩序に思えるバラバラの音の中で、「ハレルヤ」を繰り返して歌った。「人生がうまくいくときにハレルヤを言うことはよくある。でもこの曲は違う。人生がうまくいかなくても、汚れていても、しかし最後には必ずハレルヤと歌う」。最後には風船をこすりつけて「キキー、ギュギュー」と耳をつんざくような音も鳴らした。その中でもハレルヤを歌い続けた。

 路上の人とそうでない人、汚れた人とそうでない人、美しい音とそうでない音など人間の基準や境界線を問うことを、音楽を通して実践していた。緊張もあれば、笑いもあり、バラエティーあふれたライブとなっていた。ソロライブほか様々な演奏家やダンサーなどとも共演している。チェルノブイリ原発事故などに着想を得て2010年に発表された演劇「ホシハ チカニ オドル」にも参加している。今年9月28日には熊本公演、10月25〜26日には東京公演が予定されている。ライブ予定はブログ( http://blog.livedoor.jp/aogoomuzik/ )などを参照。
(クリスチャン新聞オンラインより)

クリスチャン新聞をもっと読む

関連記事

コメントは利用できません。

ページ上部へ戻る